ストレス?自由?アナログ回帰?:2025年「食生活」のリアルを読み解く
「食べる」という行為に、あなたはどれほどの選択と感情を込めているでしょうか。
毎日の食事は、健康や栄養だけでなく、「誰と食べるか」「どう注文するか」「そもそも自分で作るのか」といった日常の意思決定の積み重ねでもあります。
博報堂生活総合研究所が2025年5月に公表した「食に関する生活者調査」からは、現代の食スタイルにまつわる、さまざまな“価値観の変化”が浮かび上がってきました。今回の記事では、そのデータをもとに、現代人の「食」に対する意識と行動のリアルを読み解いていきます。
1|「ひとりごはん」はストレス?それとも気楽さ?
まず注目したいのは、「食事中のストレス」に関するデータです。
調査によると、「ひとりでの食事でストレスを感じる」人は48.5%、「誰かと一緒の食事でストレスを感じる」人は51.5%と、意外にも“ほぼ互角”の結果となりました。
この結果から見えてくるのは、「誰かと食べる=楽しい」「ひとりで食べる=寂しい」といった、これまでの固定観念が崩れつつあるということ。むしろ現代では、「ひとりで気楽に食べたい」「気を遣わずに自分のペースで食事をしたい」といった価値観が一定の層に広がっているといえます。
加えて、食事シーンごとの「気分」についても特徴的な結果が出ています。
食事シーン | 最も多く挙がった気分 | コメント例 |
---|---|---|
ひとり | のびのび | 自分のペースで食べられる |
家族と | ほっこり | 会話があると安心感がある |
友人と | わくわく | 外食や特別感が楽しい |
このように、食事は“誰と”食べるかによって感じる感情が大きく異なるということがわかります。忙しい現代において、ひとりの時間を心地よく過ごしたいというニーズは、今後さらに顕在化するかもしれません。
2|「調理定年」という発想──“家事を手放す”という選択
家での食事といえば「自炊」が当たり前だった時代は、すでに過去のものになりつつあります。
近年注目されているのが、「調理定年」という考え方です。これは、ライフステージや体力、働き方の変化に応じて、日々の料理という家事を“引退”し、外食やテイクアウトなど他の手段に切り替えるという発想です。
今回の調査では、この「調理定年」という考え方に賛成する人が66.1%に上り、反対派(33.9%)の約2倍という結果に。しかも前年調査と比べて賛成派は8.3ポイント増加しており、この1年間でも価値観が大きく動いていることがうかがえます。
この背景には、
- 共働きや高齢世帯の増加
- 食の多様化と中食(惣菜やデリバリーなど)の進化
- “ちゃんと作らなきゃ”という意識の変化
などが影響していると考えられます。
料理は“できること”であると同時に、“やらなければならないこと”ではない──そんな意識の変化が、静かに広がり始めているのです。
3|注文はアナログ派が優勢?セルフレジへのストレスも顕在化
もう一つ、日々の食にまつわる“選択”として注目すべきなのが、注文方法の多様化と、それに伴うストレスです。
飲食店での注文スタイルについての調査結果は次の通り:
- 「店員を呼んで注文する」アナログ派:61.6%
- 「タブレット・スマホなどで注文する」デジタル派:38.4%
デジタル化が進む中にあっても、アナログな方法を好む人が依然として多数を占めていることがわかります。
特に60代以上では、セルフレジやタブレット注文に関して以下のような不満が多く聞かれました。
「店ごとに操作仕様が違って戸惑う」
「操作を間違えると結局店員を呼ばなければならない」
「時間がかかって落ち着かない」
こうした声は、“便利さ”と“使いやすさ”は別物であるという課題を示しています。デジタル化の恩恵をすべての世代が享受するためには、「誰にとってもストレスの少ない設計」が今後さらに求められるでしょう。
まとめ:食の選択肢が広がる時代、“自分らしさ”が価値になる
今回の調査結果からは、現代の食生活が単なる栄養摂取を超えて、「自分らしさ」「心地よさ」「効率性」など、より多面的な価値で構成されていることが見えてきます。
- 「ひとりごはん」で気楽に。
- 「調理定年」で自分の時間を大切に。
- 「アナログ注文」でストレスフリーに。
いずれも、“どう食べるか”は“どう生きるか”の一部であることを私たちに示しています。
便利さと心地よさが両立しにくい時代だからこそ、「自分に合った食のかたちを、自由に選べること」が、これからの暮らしの満足度を大きく左右するかもしれません。
(執筆:ファイナンシャルプランナー 平野泰嗣)
●出典:博報堂生活総合研究所「食に関する生活者調査」(2025年5月)
※本記事は、ニューズレター「暮らしと資産のコンシェルジュ通信・2025年真夏号」掲載コラムに加筆・修正を行ったものです。