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コラム

令和の税制改正、働き方やライフコースの選択に中立的な税制の構築へ

カテゴリ: コンシェルジュ通信 公開日:2023年08月02日(水)
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令和時代の構造変化に対応するために、税制改正の方向性を示した政府税制調査会の答申が公表されました。給与所得者の課税強化や退職所得控除の見直しなど、個人所得課税に関する話題が注目されていますが、その背景と内容について解説します。

 

 

政府税制調査会の答申から読み解く、今後の税改正の方向性

最近、退職所得控除の見直しや通勤手当への課税など、給与所得者の課税強化に関する話題を多く目にするようになりました。その背景には、6月30日に政府税制調査会の答申が公表されたことによります。

 

この答申は、「我が国税制の現状と課題~令和時代の構造変化と税制のあり方」と題して、261ページに及ぶ大作です。第1部「基本的考え方と経済社会の構造変化」、第2部「個別税目の現状と課題」の2部構成になっています。

税の仕組みと、これまでの税制の変遷を知る

第1部では、租税の役割、租税制度の変遷と近年に税制改革の流れ、そして昨今の経済社会の構造の変化など、社会と税制の関係を丁寧に説明した内容になっています。税金に関して様々な立場から賛否両論あると思いますが、その前提として「税」に関する知識と理解は重要です。第1部は、全体で90ページ弱なのでサラッと読める量ではありませんが、一読されることをお勧めします。

令和事例の税の課題と方向性

第2部では、人口減少や働き方の変化、グローバル化やデジタル化などの社会の変化に合わせて、経済成長と財政健全化を目指すために、各税目についての現状と課題についてまとめられています。あくまでも方向性を示したもので、メディアで報道されているような具体的な税改正についてコメントする内容ではありません。

 

 

個人所得課税の課題

第2部の個人所得課税の課題で挙げられている内容は、以下の通りです。

働き方などの個人のライフコースの選択に中立的な税制の構築

  • 多様な働き方に合わせて、給与所得・事業所得・雑所得の課税上のバランスを確保すること
  • 老後の資産形成に関連して、給与・退職一時金・年金給付の税負担のバランスを確保すること

 

税負担の調整のあり方(イメージ)

(「第19回 税制調査会会議資料」より引用) 

 

「ライフコースの選択に中立な税」とは、個人が自分のライフコース(人生の進路や選択)を選ぶ際に、税制面で公平な取り扱いをするための税制政策のことを指します。具体的には、異なる選択肢や人生の段階において、税金が適切に適用され、個人の選択が税制の影響を受けずに行えるようにすることを目指します。

 

ライフコースには、教育、職業、住居、家族の形成、退職など様々な要素が含まれます。これらの要素に対する税制の影響が大きい場合、個人の選択が経済的な偏りを引き起こす可能性があります。例えば、あるライフコースが他のライフコースよりも税金的に有利である場合、人々はその選択をする傾向が強まり、社会的な均衡が崩れる可能性があります。

 

そのため、中立な税制政策を目指すことで、個人が自分の希望や能力に基づいてライフコースを選択できるようになり、経済的な歪みを最小限に抑えることができます。ただし、中立な税制を実現することは複雑な課題であり、個々の政策や税制のデザインに関する詳細な検討が必要です。

所得分配機能の適切な発揮

  • 所得1億円を超えると税負担率が減少する「一億円の壁」のように所得分配機能が発揮されないケースの是正(譲渡所得などの分離課税が要因)
  • 租税データを活用した総合課税と分離課税を統合した所得税率負担の分布の分析

 

申告納税者の所得税府負担率

(「第19回 税制調査会会議資料」より引用)

 

所得分配機能は、経済的な活動から生じる収入や富を個人や家族、企業、政府などの異なる主体にどのように分配するかを管理する役割を果たします。公正な所得分配は、社会的な不平等を抑制し、広範な人々に公平な機会を提供するために重要です。労働報酬、所得税、社会保障、福祉政策などが所得分配に影響を与えます。

 

公正な所得分配は社会の安定と繁栄に資する重要な要素ですが、その適切な発揮にはいくつかの課題が存在します。 

  • 貧富の格差: 経済成長やグローバル化によって、富の集中が進行し、貧困層との間で格差が広がる課題があります。貧富の不平等は社会的な緊張を引き起こし、社会の安定を脅かす可能性があります。
  • 低賃金労働と不安定雇用: 一部の労働者が低賃金で雇用されたり、不安定な雇用条件下で働かざるを得ない状況が存在します。これにより、労働者の生活水準が低下し、経済的な不平等が増大するおそれがあります。
  • 教育格差: 教育機会へのアクセスが不均衡であることが、所得格差の拡大に寄与しています。適切な教育を受ける機会が制限されると、能力やスキルを活かすことが難しくなります。
  • 雇用の自動化と技術変化: 技術の進化により、一部の労働分野が自動化されるなどして雇用が減少する可能性があります。これによって、職業の選択肢が制限され、所得格差が広がる恐れがあります。
  • 適切な税制と社会保障の必要性: 所得税制度や社会保障政策の設計が適切でない場合、高所得者と低所得者の差が拡大する可能性があります。適切な税制と社会保障政策が必要です。
  • 透明性と腐敗: 不透明な分配機

税制の信頼を高めるための取組

  • デジタル技術を活用した納税者の利便性の向上
  • 公平性確保に向けた取組み(新しい働き方の進展による所得の稼得手段の多様化・複雑化、国際的な資本移動の一層の進展、デジタル化による租税回避行為の高度化への対応)

 

 

通勤手当を課税するという議論は?

答申を見ると、非課税所得について触れられている箇所があり(P.102)その中に、給与所得者の旅費や現物支給、通勤手当が挙げられています。単に見直しをすべきと書かれているわけではなく、その性質や他の所得とのバランスを考慮する必要があるとされています。これは、給与所得者の給与所得控除が概算経費の意味を持つことから、通勤手当は本来そこに含まれるのでないかというように、給与所得控除の議論を抜きに考えることはできません。

 

今回の答申は、令和2年1月に諮問されて以降、議論を重ねて起草されたものです。個人所得課税に関する問題については、昨年10月に2回の会合(第17回、第19回)が開かれていて、その会議資料を見ると、より深い議論や今後の改正の方向性を示唆する内容が読み取れます。例えば、給与所得控除などの所得控除、人的控除、配偶者控除、退職所得、私的年金(DC)税制、所得分配機能などです。

 

今後の税改正の方向性は、税の損得勘定で働き方やライフコースの選択にバイアスがかからないように中立・公正な税体系の再構築です。また、税申告関係を電子化・簡便化することで公平でかつ利便性を高めたシステムの構築です。社会の構造変化に伴い、今までと異なる視点で税に対する議論が必要になっていると改めて感じました。

 

 

記事のまとめ

令和時代に入り、人口減少や働き方の多様化、グローバル化やデジタル化など、社会の構造変化が進んでいます。これに対応するために、税制改正の方向性を示した政府税制調査会の答申が6月30日に公表されました。

 

この答申は、税制の役割や変遷、経済社会の変化などを分析した第1部と、各税目についての現状と課題をまとめた第2部から構成されています。個人所得課税に関しては、働き方やライフコースの選択に中立的な税制の構築、所得分配機能の適切な発揮、税制の信頼を高めるための取組みなどが挙げられています。給与所得者の課税強化や退職所得控除の見直しなど、具体的な改正案はまだ示されていませんが、今後の議論に注目が集まります。

 

FPオフィス Life & Financial Clinic(LFC)では、皆さまの生活に影響する税・社会保障制度の改正状況などしっかり把握しながら、その人らしい幸せな人生の実現のサポートをさせていただきます。

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※本記事は、「暮らしと資産のコンシェルジュ通信・2023年真夏号」の記事を加筆修正ものです。

(執筆:ファイナンシャルプランナー 平野泰嗣)

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